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弁護士法人心 厚木法律事務所

相続人に認知症の方がいる際の遺産分割手続きと注意点

  • 文責:所長 弁護士 横江利保
  • 最終更新日:2025年9月4日

1 認知症でも遺産分割協議は参加しなければならない

高齢化が進み、認知症を患う高齢者の方も増えてきました。

遺産分割協議は、相続人全員が参加することが必要ですので、認知症の相続人がいるからといって、遺産分割手続から除外することはできません。

かといって相続人の1人が認知症を患っていては、他の相続人との話し合いや、最終的な遺産分割協議を、正常な判断のもとに行うことはできません。

あるいは、それを奇貨として、その人に極めて不利な内容の協議が、本人が内容を理解できないままに、まとめられてしまうリスクもあります。

そのため、共同相続人に認知症の方がいる場合には、通常の相続手続きとは異なる特別な配慮が必要になることがあります。

そのような配慮をせずに相続手続きを進めてしまうと、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性もあります。

今回は、相続人に認知症の方がいる場合の遺産分割手続と注意点について解説します。

2 共同相続人の1人が認知症の場合の注意点

相続人の中に認知症の方がいる場合には、以下の点に注意が必要です。

⑴ 認知症の相続人を除いての協議は認められない

被相続人が遺言書を残さずに亡くなった場合には、遺産の分割方法について相続人全員で話し合う必要があります。

これを「遺産分割協議」といいます。

共同相続人に重度の認知症の方がいる場合、自分の意見や希望を伝えることができないことから、他の相続人が、最初からその相続人を除いて遺産分割協議を進めようと考えることがあるかもしれません。

しかし、遺産分割協議は、個々の能力に関わらず、あくまで、相続人全員が参加することが必要です。

したがって、認知症の相続人を除いて行った遺産分割協議は、当然に無効となり、やり直しとなってしまいます。

⑵ 有効な遺産分割協議をするには意思能力が必要

それでは、認知症の相続人を、そのまま遺産分割協議に加えればよいのかというと、それも違います。

有効な遺産分割協議を行うためには、前提として、当事者である相続人が、自分の行為の結果を判断することができる精神能力を備えていることが必要です。

これを「意思能力」といいます。

しかし、一般に、重度の認知症の方は、この意思能力を欠くとされており、相続人を重度の認知症の状態で参加させたとしても、遺産分割協議は無効になってしまいます。

なお、軽度の認知症であれば、問題なく遺産分割ができるケースもありますが、遺産分割の終了後に認知症が進行した場合には、後日「あのときの協議は認知症の人がいたから無効だ」と他の相続人が主張する可能性が想定され、そうしたトラブルの発生を防ぐ必要があります。

はたから見ると「このままでも協議できそう」と思われる場合でも、医師の診断を受け、診断書を書いてもらっておけばトラブルが発生しても対応することができます。

3 認知症の相続人がいる場合の遺産分割の方法

それでは、認知症の相続人がいる場合には、どのような対処をすればよいのでしょうか。

以下では、被相続人が遺言書を残さずに亡くなった場合の対処法について説明します。

⑴ 法定相続分どおりに相続する

相続が開始した場合に、どのくらいの割合で遺産を受け取ることができるかについては、民法に「法定相続分」として規定があります。

全ての遺産を民法が規定する法定相続分どおりに相続するのであれば、遺産分割協議は不要になりますので、認知症の相続人がいたとしても、問題なく遺産を分割することができます。

遺産に預貯金が含まれる場合

しかし、被相続人の遺産に預貯金が含まれている場合には、金融機関で預貯金を払い戻す手続きをする際に、戸籍謄本や印鑑証明書の取得で苦労することがあります(なお、平成28年の最高裁決定は、相続開始と同時に当然に各共同相続人に分割されるとそれまで考えられてきた預貯金債権について、預貯金債権もまた遺産分割の対象に含まれると判示しました)。

遺産に不動産が含まれる場合

また、遺産に不動産が含まれている場合には、法律上、相続開始の時点で、相続人全員の共有状態となります。

したがって、遺産である不動産を売却しようとする場合には、共有者である相続人全員の同意が必要になりますが、認知症の相続人から同意を得ることは困難なため、実際には不動産の売却ができないという不都合が生じます。

かといって、共有状態のまま不動産を放置すると、相続登記の義務を果たすことができませんし、将来、不動産の共有者に相続が発生した際に、更に権利関係が複雑になるリスクもありますので、あまりおすすめできません。

こういったケースでは、次項でご説明するように、成年後見人といった代理人を立てる必要があります。

⑵ 成年後見制度を利用する

認知症の相続人がいる場合には、成年後見制度を利用することによって、遺産分割協議を有効に成立させることができます。

成年後見制度は、認知症などで判断能力が不十分な本人に代わり、成年後見人等の援助者が身のまわりの世話をするために介護サービスや施設入所に関する契約を締結したり、預貯金や不動産などの財産を管理したりする制度のことをいいます(参考リンク:裁判所・成年後見制度について)。

成年後見制度は、本人の判断能力の程度により、以下の3つの類型に分けられます。

  • 後見-判断能力が欠けているのが通常の状態の方(例:重度の認知症)
  • 保佐-判断能力が著しく不十分な方(例:中程度の認知症)
  • 補助-判断能力が不十分な方(例:軽度の認知症)

この成年後見制度を利用することによって、裁判所から選任された成年後見人などが、認知症の相続人本人に代わって遺産分割協議に参加し、有効に遺産分割協議を成立させることが可能になります。

遺産分割協議書にも、認知症の相続人に代わり、成年後見人が署名押印します。

認知症の程度が重い後見の場合は、成年後見人が当然に遺産分割についての代理権を持ち、本人が遺産分割手続を進めることはできません。

一方、後見より認知症の程度が軽い保佐や補助については、保佐人・補助人に遺産分割について代理権を付与する旨の審判がされていない限り、本人が遺産分割を進めることになります。

本人が遺産分割手続を進めるに当たり、保佐の場合は、保佐人の同意が必要ですが、補助の場合は、遺産分割に補助人の同意を必要とする旨の審判がされていない限り、補助人の同意なしで遺産分割を進めることが可能です。

このように、本人の判断能力の程度によって、代理権の有無、同意の要否などといった、法的な制約のレベルも異なっています。

ただし、成年後見制度は、判断能力のない本人を保護することを目的とした制度ですので、遺産分割協議が成立したとしても、そこで成年後見人を辞任・解任することはできず、認知症の本人が死亡するまで、成年後見人が本人の財産管理などの業務を行っていかなければなりません。

成年後見制度と利益相反

なお、遺産分割協議を行なうための成年後見人に親族を選任すると、利益相反となることが考えられるため、弁護士や司法書士などの専門職後見人が選任される可能性が高くなります(また、上述の通り、成年後見人の仕事は、本人が亡くなるまで続くことから、そのコストのために親族側から敬遠されることもあります)。

既に親族が後見人に選任されており、その後見人が被後見人と共に共同相続人である場合には、遺産分割協議の際に、利益相反を回避するために、後見監督人が選任されていなければ、特別代理人の選任が必要になります。

また、成年後見人の選任には、数か月かかることにも注意が必要です。

4 相続対策として遺言の作成を

推定相続人に認知症を患っている方がいる場合には、あらかじめ遺言書を作成しておくことが、相続対策としては有効です。

遺言書で全ての財産につき相続分の指定がなされていれば、相続人が遺産分割協議をする必要がなく、また、遺言書があれば、法務局での相続登記や金融機関での預貯金の払い戻しの手続きを行うことが可能です。

ただし、このような方法を採ることができるのは、有効な遺言書が残されている場合に限ります。

遺言書は、法定の要件を満たしていなければ、無効になってしまい、すべての遺産について遺産分割協議を行う必要が生じます。

遺言書を作成するときには、弁護士のサポートを受けるなどして、有効な遺言書になるように留意しなければなりません。

また、法的に有効な遺言書を残していたとしても、遺産の全てについて漏れなく遺産分割方法を指定しておかなければ、指定のない遺産について、別途遺産分割協議が必要になってしまいます。

まだ相続が発生していない段階であれば、早期に弁護士に相談をするなどして遺言書の作成などの事前に対策をするのがよいです。

5 認知症の相続人がいる場合は弁護士にご相談ください

認知症の相続人がいる場合には、通常の相続手続きとは異なる配慮が必要になります。

被相続人が亡くなった後に対処をすることになると、成年後見制度など煩雑な手続きを取らなければなりません。

もし、既に親族の中に認知症の方がいて、その方が将来自身の相続人になる可能性があるのであれば、遺言書の作成など、生前に対策をすることをおすすめします。

認知症の相続人がいる場合の対策や対応については、当法人の弁護士にご相談ください。

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